ヒロシと抗争のニュース

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朝、団地の台所で、
いつものようにぬるくなった麦茶を飲みながら、
ヒロシはテレビをぼんやり見ていた。

「〇〇組と××会の抗争で一名死亡――」
画面には、ぼやけた顔写真と
街中に規制線が張られた映像。

テロップが出る。
死亡:高村健吾(38)

ヒロシは麦茶を飲み下してから、
一瞬だけ目を細めた。

(……健吾?)

画面の左上の顔写真、
どこかで見たことがある。
眉毛が濃くて、
前歯が出てて、
口癖が「しばくぞ」だった気がする。

(あー……あいつや)

中学まで一緒だった健吾。
不良のまま、高校行かずに地元で名を上げて、
そのうち組に入ったって噂は聞いてた。

「死んだんか……」

ヒロシは、そう呟いたけれど、
悲しいとか、寂しいとか、
あまり浮かんでこなかった。

むしろ、
「俺は生きてるのに、何もしてへん」
という思いが、
冷たい風のように胸を通り過ぎていった。

テレビはもう次のニュースに切り替わって、
スシローの新メニューを紹介している。

ヒロシは麦茶のおかわりを取りにいって、
冷蔵庫の扉を開けたけど、
何も変わっていないいつもの朝が
ただ、目の前にあった。

「……俺は、なんなんやろな」

誰にも聞かれない言葉を
自分で飲み込んで、
ヒロシはまた、敷きっぱなしの布団にもぐり込んだ。

終わり