その日は久しぶりに少し遠くの公園まで歩こうと思った。
ヒロシは思いついたように、
押入れの奥から高校のときのバスケットシューズを引っ張り出した。
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白地に青のライン。
NIKEって書いてある。
かつての自分の足元を支えてくれた、相棒。
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(いけるやろ、たぶん)
(あんときより足、ちょっと縮んだ気ぃするし)
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靴ひもをキュッと結んで、
外へ出た。
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一歩。
二歩。
バッシュが足を包みこんでくれる感触。
懐かしい。
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でも、五歩目あたりで、
「パキッ」って音がした。
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(…ん?)
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十歩目で、
ソールがぺろっと剥がれた。
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二十歩目で、
反対の靴も裂けた。
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(なんやこれ…!)
—
気づけば足の裏に変な感触。
スポンジ状の素材が崩れて、
団地の道にポロポロと落ちていく。
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加水分解。
ヒロシはその言葉を知らなかったが、
靴が腐る、ということは身をもって理解した。
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結局、ヒロシは
裸足で団地に戻った。
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途中で自販機の横にしゃがんで、
崩れた靴の破片を袋に詰めていると、
小学生がすれ違いざまに言った。
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「おっちゃん、なんで裸足なん?」
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ヒロシは笑ってごまかしたけど、
心のなかでは、
(高校の時も…全然シュート入らんかったな…)
と思い出して、
少しだけ泣きそうになった。
—
終わり