ヒロシと唐揚げ屋の夢

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日曜の昼下がり。
ヒロシはスーパーで買った「鶏モモ特売128円」のパックを見つめていた。

(……やってみるか)

クックパッドを見ながら、
酒と醤油とニンニクチューブ。
冷蔵庫の隅でしなしなになっていた生姜も刻んで、
なんとなく揉み込んでみる。

衣は片栗粉だけ。
揚げ油はサラダ油の残り。
フライパンの深さ、2センチ。

ジュワァァァ……!

香ばしい音。
跳ねる油。
煙探知機が一瞬ピッと鳴りかけて、すぐ静まる。
換気扇がゴウンと回り出す。

焦げてない。
カリッとしてる。
一口かじって、
「うま……」

ヒロシは驚いた。
これ、売れるんちゃうか?
あかん、うまい。これヤバい。

(唐揚げ屋……俺の店……「ヒロから」……)
(昼は弁当も出す。学生に人気出て、テレビとか……)
(バイトの女の子が「ヒロさん、これどうします?」とか……)
(ふふ……ふふふ……)

気づけば、冷めかけた唐揚げをつまみながら、
団地のキッチンでニヤついていた。

でも、ふと現実に戻る。

・フライパンしかない
・油の処理どうするかも知らん
・火災保険とか要るんか
・何より資金ゼロ

(……あかんわ)

妄想は消えて、口の中には最後の唐揚げ。
パリッとした衣に、じゅわっと染みたニンニクの味。

ヒロシはそれを噛みしめながら、
「俺の才能、今んとこ、誰にもバレてへんな」
と、
ちょっとだけ嬉しく、
ちょっとだけ切なく思った。

終わり