団地近くのコンビニ。
何気なく入った冷蔵飲料の棚。
そこに、見慣れない黄緑のラベルがあった。
「……メローイエロー?」
思わず口に出た。
ヒロシの指が震える。
炭酸のせいでも、冷蔵ケースの冷気のせいでもない。
子供の頃、
たまにカーチャンが買ってくれた炭酸飲料。
けど滅多には飲ませてくれなかった。
「体に悪い」
「甘すぎる」
「お茶にしなさい」
カーチャンの言葉が頭をよぎる。
でも、自転車の後ろに乗って帰るとき、
「今日は特別や」と言って渡してくれた、
あのメローイエロー。
ヒロシは迷わず一本、手に取る。
団地のベンチで、缶を開ける。
プシュッという音とともに、懐かしい香りが鼻をつく。
ごくり。ひと口。
甘い。やたら甘い。
でも、あの頃と同じ味だ。
変わってない。何も変わってない。
なのに、なぜだろう。
涙がポロポロ、止まらない。
メローイエローを握る手が、かすかに震える。
あの頃のヒロシは、
まだ何者かになれる気がしていた。
未来が、今日よりもまぶしく見えていた。
カーチャンのチャリンコの後ろ。
小さな手で、冷たい缶を握っていた。
すこしだけこぼして、服を濡らした。
あの夏の午後。
ヒロシは空を見た。
雲が、ゆっくり流れていた。
終わり