ヒロシと ひとりの お弁当

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ヒロシは 子どものころ、
小学校の 遠足が 少し 苦手でした。

朝、かあちゃんが 作ってくれた お弁当を、
みんなに 見られるのが、なんだか 恥ずかしかったのです。

ヒロシのお弁当は、
大きな おにぎりと、
ちょっと こげた ウインナー、
それから、ふっくら 甘い 卵焼き。

キャラクターの お弁当でも、
カラフルな サンドイッチでも ありませんでした。

でも、ヒロシは 知っていました。
かあちゃんが 夜遅くまで 働いて、
それでも 朝早く 起きて、
一生けんめい 作ってくれたことを。

だけど、
友だちに 笑われるのが こわくて、
ヒロシは みんなから 離れた
公園の 木のかげで、
そっと 一人で 食べました。

卵焼きは、
つめたくて、甘くて、
ほっぺたが きゅっと なりました。

──それから、
たくさんの 日が 過ぎました。

今のヒロシは、
安い 弁当を 買って、
小さな 部屋で、
毎日 一人で ごはんを 食べています。

今日も、
誰もいない テーブルの前で、
そっと 箸を 動かします。

「……やっぱり、一人は、さみしいな」

ヒロシは 声にならない ことばを、
胸の奥に そっと しまいました。

冷たくなった ごはんを、
ゆっくり ゆっくり 食べながら。