日曜の深夜。
布団に入りながら、ヒロシは借りてきた「アウトレイジ」を観ていた。
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画面の中では、
無言で睨み合う男たち。
黒いスーツ、威圧的な声、
拳銃、金、裏切り、報復――
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「バカヤロー!」「コノヤロー!」
飛び交う怒号。
ヒロシの胸が、ゾクッと熱くなる。
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(かっけえ……)
(俺もあんなん……)
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一瞬、自分もその世界にいたらと想像する。
スーツを着て、サングラス。
車のドアをバシッと閉めて、
「行くぞ」とか言ってみたい。
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でも次の瞬間、
脳内に浮かぶのは――
やられる側のヒロシ。
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「誰に断ってシノギ削ってんだコラァ!」
顔面グラス。
歯、飛ぶ。
指、詰めろ。
トランクに詰められ、
どこかの港でポイッ。
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(……いや、無理やわ)
(俺、怒鳴られたらすぐ土下座やもん)
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布団の中でスマホの画面を伏せて、
天井を見つめる。
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(ああいう世界に向いてない)
(そもそもスーツ持ってへんし)
(持っててもリサイクルのネイビーやし)
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ヒロシは、ため息をついて目を閉じた。
「俺が生き残れる抗争なんてない」
そう確信した夜だった。
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翌朝、
団地の階段ですれ違った中学生に軽く肩ぶつけられて、
「……すんません」と小声で謝ったヒロシ。
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やっぱり現実では、
「バカヤローコノヤロー」とは、言えなかった。
終わり