疎外感だけを覚えている
小学校低学年の頃に両親に連れられて遊園地的な所に行った。本来は有料道路を通らなければ入れない遊園地なのだが、ケチな両親は有料道路を使用することなく脇道から脱法的に無銭侵入していた。小学生ながらそういう方法で入った遊園地は全く楽しめなかった。「なぜボクの家はお金を払わずにここにいるんだろう、ボクはここに居て良いんだろうか」という、世界からの疎外感のようなものだけが心に残っている。
現存する黒井山グリーンパーク
ワタシの家族が侵入した遊園地は現在も存在している。現在は遊園地ではなく道の駅として存在している。「道の駅 黒井山グリーンパーク」というところである。
「黒井山」は「くろいさん」と読む。現在の「黒井山グリーンパーク」は「岡山ブルーライン」という県道に設けられた道の駅となっている。現在は「岡山ブルーライン」は無料の道路だが、以前は有料道路だった。そして「黒井山グリーンパーク」は有料道路に設けられた遊園地という位置づけだった。「岡山ブルーライン」の成り立ちを見る。
有料道路だった岡山ブルーライン
岡山ブルーライン(おかやまブルーライン)は、岡山県岡山市東区君津から岡山県備前市蕃山を結ぶ延長32.4キロメートル (km) の道路の愛称。正式な路線名は岡山県道397号寒河本庄岡山線(おかやまけんどう397ごうそうごほんじょうおかやません)。旧称「岡山ブルーハイウェイ」。
Wikipedia 岡山ブルーライン
岡山ブルーラインは片側一車線の高架道路だ。1970年代に順次開通した。現在は無料道路だが、2004年までは有料道路だった。1985年当時の通行料金は普通車が750円だったようだ。緑の中や海の上を走る風光明媚な道路だ。信号は一箇所に設けられているだけで基本的に渋滞が発生することもない。
1994年までは名称が「岡山ブルーハイウェイ」だった。「岡山ブルーハイウェイ」は高速道路ではなく、制限速度は60km/hだった。しかし「ハイウェイ」という名称は高速道路を想像させる名称だ。そのせいか速度超過やそれが原因と思われる事故が多発した。そのため後に名称が「岡山ブルーライン」に変更された。
つまりこの道路はワタシが小学生の頃は名称が「岡山ブルーハイウェイ」であり、750円の通行料金がかかる有料道路だった。ワタシの生息地域からほど近い道路だが、ワタシは幼少の頃にこの道路を通った事が無かった。理由は「有料道路」だからである。ワタシの両親はドケチなため有料道路時代の「岡山ブルーハイウェイ」を利用したことは一度も無い。
「黒井山グリーンパーク」は有料道路の「岡山ブルーハイウェイ」に設けられた遊園地だ。現在では道の駅とされているが、ワタシが小学生だった頃は「道の駅」という概念そのものが無かった。道の駅は1993年からスタートしたらしい。
1993年(平成5年)2月23日、国により「道の駅」登録・案内制度が創設され、登録の申請・受付を経て1993年(平成5年)4月22日、1回目の道の駅登録証が、103の施設に交付され、道の駅が正式にスタートしました。
国土交通省 「道の駅」の歴史
有料道路を使う人のための遊園地に無銭侵入
「黒井山グリーンパーク」はプール、ラジコンコース、休憩所、みかん狩り園などの施設が整備されていた。
つまり「黒井山グリーンパーク」は「岡山ブルーハイウェイ」をお金を出して通った人だけが利用できる遊園地だった。ところがワタシの両親は有料道路の「岡山ブルーハイウェイ」を使わずに「黒井山グリーンパーク」に裏道から入る方法を知っていた。
ワタシもその裏道を通って「黒井山グリーンパーク」に何度も連れて行かれた。「黒井山グリーンパーク」は山の中に設けられた遊園地なのだが、そこの脇には数本の山道が通っていた。ワタシの両親はその山道を知っていて、車でその山道を走ることで「岡山ブルーハイウェイ」を使わずに「黒井山グリーンパーク」に侵入していた。裏道入園である。
山道は「黒井山グリーンパーク」の脇を走っているだけで、「黒井山グリーンパーク」の駐車場に接続されているわけではない。ワタシの両親は山道に車を放置し、「黒井山グリーンパーク」の柵のようなものを乗り越えて園内に侵入していた。小学生のワタシもそれに同行していた。
わたしは小学生ながら「これは良くない事なんじゃないだろうか」という気持ちを持っていた。山道に放置した車の事も心配だった。「警察が車を持って行ってしまうんじゃないだろうか」という心配をしていた。「有料の道路を使っていないのに遊園地に入ったら逮捕されるんじゃないだろうか」という心配もしていた。とにかく色々なことが心配で仕方なかった。
見合い結婚でケチという点は一致
「黒井山グリーンパーク」はケチな両親が連れて行ってくれる唯一の「遊園地」だった。その頃は日本各地に「遊園地」があった。しかしワタシのケチな両親が「遊園地」などに連れて行ってくれることは無かった。両親が連れて行ってくれた遊園地は「黒井山グリーンパーク」だけなのである。
せっかくの「遊園地」なのだがワタシは全然楽しめなかった。遊んでいても急に逮捕されるんじゃないかと気が気でなかった。
周りで無邪気に遊んでいる同年代の子供のことが恨めしかった。「お前らは通行料金を支払った“正当な来客”なんだろうな。何も考えずにここを楽しめて羨ましいよ。ボクは“不法侵入した招かれざる客”なんだよ。」という気持ちで他の子供達を睨んでいた。睨まれた子供は意味が分からなかった事だろう。
自分がそこに居ても良い、存在しても良いという資格を確認できるという事は、人にとって重要だと子供心に考えていた。招かれざる客は居心地が非常に悪いのだ。
しかしワタシの両親は大したモノだとも思う。両親は見合い結婚と聞いている。他人同士が見合いで結婚して、結託して「脱法侵入」をやってのけるのだ。両親のうちどちらかが「脱法侵入」を嫌がっているという様子は無かった。ふたりとも喜んで「脱法侵入」していた。仲が良いとはいえないが「ケチ」という点においては団結力を感じさせる夫婦である。両親は脱法侵入した遊園地を楽しんでいた。我が両親ながら恐れ入った。