RKB毎日放送で2023年3月13日に放送された番組「田畑竜介Grooooow Up」内のコーナー「松尾潔 BrushUP」の書き起こし
今回取り上げるのは日本の芸能界の超大手の事務所ジャニーズ事務所の、ジャニーさんです。2019年に87歳でお亡くなりになりました。
彼の遺した偉大な功績は皆さんよくご存知だと思います。僕もジャニーズ事務所のアーティストとたくさん仕事をしてきました。
一方でジャニーさんは所属する男性タレントに性的虐待を加えているという都市伝説のような噂が付きまといました。
その事を先週イギリスの公共放送のBBCがドキュメンタリーとしてイギリスで放映しました。かなり長い時間をかけて取材した番組、Predatorというタイトルです。
今のところ日本では放映されていません。今月末にBBCワールドで日本語版が出ると聞いています。僕はそれを一足先にBBCで観ました。観た以上はここでお話します。
番組のタイトルが「Predator」、サブタイトルが「The Secret Scandal of J-Pop」です。日本の音楽業界に携わっている者としては気になるタイトルです。Predatorというのは捕食者という意味で、食物連鎖で頂点に来るものの事を意味しています。弱き者、小さき者から搾取する、君臨するという意味合いです。
この番組に証言者として元ジャニーズ事務所だった人が何人か登場します。ここで言うのが憚られるくらいの生々しい証言をしています。恐らくはジャニーさんによる性加害は本当だったんだろうと思わざるを得ない内容です。
それに対してジャニーさんの姪に当たるジュリーさんが事務所の公式の見解を出しています。「取材をされるということに対して重く受け止めているので聖域のない可視化に取り組む」という前向きな内容です。
清濁併せ呑むのが芸能界、エンタメの魅力だと思います。性的加害はセクシャルハラスメントだけでなく、パワーハラスメントでもあります。この事務所だけが悪いという事ではなく、業界、更には日本全体の問題ではないかというのがBBCの問題提起です。
考えてみてください。芸能界だけでなく政治の世界もそうです。色々と毀誉褒貶あった方が亡くなった途端に、「死者に鞭打つのか」という事で批判に自粛がかかる現象があります。それに美徳を感じる気持ちも日本人としてはわかりますが。
国際的なミートゥー運動で、ワインスタインやウディ・アレン、音楽の世界だとR&Bキングと言われたR・ケリーなどのかつての悪事がどんどんと表沙汰になっています。
僕はNHKで10数年R&Bの番組をやっています。僕はR・ケリーが大好きだと公言してきましたが、彼の曲をラジオで掛けることで胸を痛める人が居るだろうと思いこの数年かけていません。これはアメリカのルールに倣っています。
一度だけ例外がありました。「音楽は関係ないだろ、掛けようよ」というゲストの山下達郎さんのリクエストでかけたことが一度だけありました。それが唯一の例外です。僕はそうは思わないので普段は掛けません。
BBCの最後のコメントが印象に残りました。「喜多川氏は死んでも守られている」と言います。それがBBCの記者にとってはすごい驚きのようです。
喜多川氏を守ることによって得をし続ける日本のメディアとか芸能界があります。新しいフォーマットを考えることを我々は座組と呼びます。これをやらずに既存のものに乗っかってそのままやっていったほうが楽だと言う人も業界にはたくさんいます。それが犠牲者を増やしていく構造であれば、今こそ改めるべきだと思います。
今回BBCが取り上げたのは被害者が子供・少年たちだという理由もあります。子供は守られるべきだという大前提を日本という社会はなぜ認めないのか、それが一番恥じるべきことじゃないかと思います。
亡くなったジャニーさんだけを責めるのではなく、この国の言論空間には、称賛と批判の2つだけしかなく、検証というものがなく、第3の選択肢があるとすれば、沈黙があるだけです。沈黙というのはほとんどの場合現状を肯定することになってしまいます。
我々の日々の過ごし方に一石を投じるという番組だと解釈しました。変わるべきところは変えていきたいです。
2023年3月13日放送 松尾潔 BrushUP
RKBの公式サイトに書き起こしのある番組もあるが、2023年3月13日放送の「松尾潔 BrushUP」は無かったため作成した。