ワンチャンという言葉が気に入らないと思っていが実は自分が間違っていた件

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ワタシは実は「日本語を正しく使う会」岡山支部の副支部長を務めている。

現代の若者が使用する「ワンチャン」という言葉が嫌いだった。「ワンチャン遅刻しそう」などと使われると発狂しそうになっていた。

若者の使う「ワンチャン」に憤怒していたが実はワタシが間違っていたと判明し今は反省している。

元は麻雀用語という説

今回問題とする言葉は「ワンチャン」である。念の為に断っておくが犬(わんちゃん)ではない

王貞治の事でもない。今の世代の人が王貞治を「ワンチャン」と呼んでいたら「昭和マニアの変わった若者」という印象を抱くだろう。

国民栄誉賞第一号の王貞治は置いておくとして、ワタシが言いたいのは「ワンチャンス」を略して作られたであろう言葉の「ワンチャン」である。

「ワンチャン」は元々麻雀用語という説がある。「一度のチャンスが掴めれば逆転できる」という意味だ。ワタシは麻雀の経験はあるが、麻雀で「ワンチャン」を使った事はない。

「ワンチャン」は、英語の「one chance」(ワンチャンス)が省略されたものです。元々は「1回のチャンスで逆転できる」という状況を指す麻雀用語として使われていました。それが格闘ゲーム好きの間でも「うまくいけば勝つチャンスがある」「まだ勝つチャンスはある」といった意味で広まり、若者言葉として定着。若者と言わず、幅広い年代に使われるようになってきた言葉です。

Oggi.jp

麻雀豆腐というサイトによると別の意味が解説されていた。捨て牌が通りそうだけど、完全に安全というわけでは無いという解説だ。

【ワンチャンス】とは(麻雀用語辞典)

【ワンチャンス】『戦術系用語』

ワンチャンスとは場に同じ種類の数牌(シューハイ)が3枚見えており、それにより両面待ちに対応した安全牌の壁スジが出現し、その牌を打牌してロンを回避する守備の戦法のことです。ただ、残りの1枚で両面待ちに構えているプレイヤーがいる可能性が残っている為注意が必要です。同様に、同じ牌が4枚見えている状態はノーチャンスと言われ、壁スジとしてはワンチャンスよりも安全度が高いです。このスジは壁とも呼ばれ、壁スジは安全牌読みに活用できます。

麻雀豆腐

スロットで脳汁を噴出

実はワタシも「ワンチャン」をよく使っていた。20年以上前の話である。麻雀ではなくスロットマシーンの用語としてだ。

1990年頃に遡る。山佐というスロットマシンメーカーの「スーパープラネット」という機種が人気を博した。「大当たりするかもしれない出目」というのが出現する事がある。大当たりするかもしれないし、しないかもしれない。思わせぶりな出目なのである。

このような曖昧な出目を機種の特徴として打ち出してきたのはスーパープラネットが初期だったように記憶している。この思わせぶりな演出がギャンブラーの心を射抜きスーパープラネットは大ヒットした。メーカーとしての山佐はファンから高く評価され後続機種のニューパルサーの更なる大ヒットにつながる。

スーパープラネットでこの思わせぶりな出目が出た状態の事を「ワンチャンス」もしくは「ワンチャン」と呼んだ。ギャンブラーたちはこの出目が出たら心の中で「ワンチャン!」と叫び、脳内にアドレナリンが大放出される。心拍数は上がり呼吸が荒くなる。セブンを揃えるべく目を血走らせながら次のプレーで目押しをしていた。

スロットは大当たりのフラグが一度立つと消える事は無いので別にチャンスが一回というわけではない。したがって次のプレーでセブンを狙わずとも、大当たりのフラグが立っていれば放っておいてもそのうち揃う。しかし我々は「揃うかもしれない」という期待に脳汁を吹き出させ身を震わせながら目押しをしたものだった。ギャンブラーの生態の片鱗が伺えたと思う。

ワンチャン遅刻するの違和感

「ワンチャン」の話に戻ると、ワンチャンはワンチャンス=one chanceだ。小さいながらも存在する希望の事を「たった一つのチャンス」という意味で「ワンチャン」と呼ぶのだ。「ワンチャン」とは儚い望みのようなものである。ところが現代の若者の「ワンチャン」の使い方はおかしい。狂っている。

「ワンチャン遅刻するかも」と言う。遅刻のどこにチャンスがあると言うのか。それを言うなら「ワンチャン間に合うかもしれない」だろう。遅刻はチャンスではなくピンチなのだ。

何かやらかした時に「ワンチャン私の責任?」などと言う。良くない事象が発生した責任の所在が自分にある事のどこがチャンスなのか。これも明らかなピンチである。叱られて伸びるタイプだから、怒られるチャンス到来とでも言いたいのか。

「ワンチャン死ぬかと思った」などと言う。「死んでしまえるかもしれないと思った」という意味になってしまわないか。死にたくて仕方がない自殺志願者なのか。自殺願望を抱いているなら大人として責任を感じるので軽いノリで言わないで欲しい。「チャンス」という言葉が入っているのだから希望が有る場面でのみ使用してほしい。

英語ではchanceを悪い意味にも使う

ここまで書いてふと「チャンス」は英語だなということを思い出した。英語ネイティブの方々が日本の若者の「ワンチャン」という言葉を聞いたら噴飯するのではないだろうか。ググってみた。

chanceは悪い出来事、悪い機会に対しても使える点です。カタカナの「チャンス」は良い意味でしか使われませんが、chanceは「悪い機会」にも使えます。

例文
There was a chance to die on the journey.

旅行中に死ぬ機会があった。

この場合は命を落としかねないような危険な出来事があったことを感じさせます。そして、それは自分は望んでいなかった機会だと普通は考えます。

ネイティブと英語について話したこと

ネイティブは噴飯しなかった。逆にワタシが飲んでいたコーヒーをPCのモニターに吹き出してしまった。モニターから煙がでてケミカルな臭いがしている。ワンチャン爆発するかもしれない。

英語の「chance」は悪い出来事や悪い機会にも使用するというではないか。例文の約が「旅行中に死ぬ機会があった」である。これはすなわち「旅行中にワンチャン死ぬかと思った」ということなのだ。

現代の子どもたちはワンチャンを「ひょっとして」という意味で使用している。「ひょっとして」の後に続く言葉は良いことでも悪いことでも気にしていない。「ひょっとして遅刻するかもしれない」でも「ひょっとして死ぬかもしれない」でもいいのだ。

「ワンチャン」に含まれる「チャンス」を英語ネイティブと同じ意味で使用しているということだ。

後輩に謝罪したい

ワタシは「正しい日本語普及運動」を行っている。先日も後輩の若者に「なぜ君は『ワンチャン』を悪い意味で使うのだ、『チャンス』とは好機である、『ピンチ』で『ワンチャン』を使うのはおかしいではないか、反省しろ!」と説教してしまった。「正しい日本語普及運動」の活動の一環だったとはいえ今思うと間違った指導だった。

その後輩は「なんだ?このおっさん」という反応をしながらも黙って聞いていた。「ワンチャン遅刻しそう」という言葉の違和感に興奮していたワタシは、若者自身のためだと心を鬼にして涙を流しながら「ワンチャンって言うのは元々山佐のスーパープラネットでフラグが・・・(以下略)」と30分説教してしまった。

それ以来その後輩はワタシと口を聞いてくれない。それどころかワタシは後輩たちの間で「ワンチャンという言葉を聞くとなぜかスロットの話をネチネチし続けるオッサン」と陰口を叩かれているらしい。

正しい日本語普及のためなら無視されても良い、陰口を叩かれても平気だと思っていた。ところがどっこい若者の使い方のほうが英語ネイティブの意味に近かった。ワタシが間違っていた。なんてこったパンナコッタ。これからその後輩に謝罪をしようと思う。一生懸命謝ればワンチャン許してもらえるかもしれない