ヒロシとタメ口ポリス

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団地の坂道を下りて、
コンビニまで歩いていたヒロシ。
ジャージにサンダル、肩にはペラいエコバッグ。

「すいませーん、ちょっといいかなぁ?」

声をかけてきたのは、若い警官。
ピシッと制服、ツルツルの顔。
見るからに、20代そこそこ。

「あの、身分証ある? どこ行くの? 夜遅いよね〜」
「一人暮らし? 何されてるん?」

(おいおいタメ口やん……)
(なんやその態度……俺のが年上やぞ……)

でもヒロシの口から出たのは、

「い、いえ……ちょっと、コンビニに……」
「身分証ですか?あ、はい……これ……」

財布からしわしわの保険証を出す手が震える。
警官は軽く受け取って、パッと見るだけ。

「うん、大丈夫やね〜、気をつけて〜」

ヒロシは会釈して、そそくさとその場を去った。
コンビニに着いても、買う気が失せて、
肉まんの湯気を見つめてすぐに帰った。

団地の階段を上りながら、
じわじわと込み上げてくる。

(なんやねんアイツ……)
(あいつ絶対ハタチそこそこやろ……)
(敬語もなしに職質かましやがって……)
(「気をつけて〜」やないんじゃボケェ……)

でも、もう遅い。
エコバッグの中身は空っぽ。
心の中だけに怒号が響く。

部屋に戻って布団に入るころには、
怒りは悔しさに変わっていた。

(俺……なにビビっとんねん……)
(「敬語使え」くらい言えたやろ……)
(ああ……悔しい……)

ヒロシは天井を見つめたまま、
「敬語使え」ってつぶやいてみた。
小声で、震え声で、誰にも届かずに。

終わり