普通に売ってるやん
ウェアラブルカメラ
クラウドファンディングで革命的なモノのような扱いで、資金を集めているプロジェクトの商品が実は普通に売られているという事案がある。先日ニュースで見かけた例を挙げよう。
<Alibabaにもある既製品を、新規開発であるかのように見せて支援を募っているのでは?>
<中国製品をOEMした感じのものを売っている>
たしかに、指摘されているプロジェクトの製品とまったく同じに見える商品が、Alibaba(中国資本が運営するオンラインマーケット)で売られていることが確認できました。
bizSPA!フレッシュ
クラウドファンディングサービスの「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」にメガネ型ウェアラブルカメラのプロジェクトが掲載された。
メガネにカメラが内蔵されている。メガネ型ウェアラブルカメラだ。
14,500円が9425円
Eyes Camera 特長
目で見ているそのままの景色を、視線の動きに合わせて撮影をすることができます。
メガネ型のウェアラブルカメラのため、マウントの必要もなく手ぶらで撮影ができます。
フルハイビジョンHDなので、かなりきれいな映像を撮影して録画をすることができます。
CAMPFIRE
視線の動きに合わせて撮影ってすごくないか?視線を検知してそこにオートフォーカスしそうな勢いだ。さらに録音もできる。
上の写真を見てくれ。もうメガネを掛けてすらいない。録音できるからICレコーダーの代わりにもなるというアピールだろう。すごい。
支援金額は9,425円からで、送られてくるカメラ付きメガネの一般販売価格は14,500円となっている。
つまり、9,425円拠出すればこのデバイスを手に入れることができるというわけだ。
ウェアラブルカメラという概念は新しい。カメラ付きメガネの標準的な価格帯を我々は知らない。だからこそ、ここに「一般販売価格」などど書かれるとそれを信じ込んでしまう。
アンカリング効果
我々はこういう二重価格表示に弱い。
「一般販売価格が14,500円なのに9,425円で買えるよー」などと囁かれると「あ、5,000円以上お得じゃん」と嬉しくなってしまうのだ。
このような二重価格はアンカリング効果を狙ったものだ。
アンカリング効果にはまったのか、ウェアラブルカメラが欲しかったのか、実際にポチった人が754人いたのだ。800万円以上を集めて資金調達は大成功を収めている。
Alibabaにありますけど
Alibabaでは1,000円
このウェアラブルカメラのプロジェクトには続きの話がある。実はこのウェアラブルカメラは同じ製品がクラウドファンディングプロジェクトの以前からAlibabaで販売されていたのだ。
しかも価格は1,000円程度である。
実に700人以上の人が、1,000円程度の商品を10倍の価格で購入した事になる。
二番煎じでもウハウハ
さらに実はこのプロジェクトは二度目だ。過去にも同じプロジェクトを同じ会社が行っている。二番煎じなのだ。
以前も454人から500万円近くを集めている。ページの見た目とか全く同じじゃん。本当の二番煎じ。みんなウェアラブルカメラが好きなんだなぁ。探偵とかスパイに憧れていたりするのだろうか。
画像もAlibabaから転用
Alibabaを開くとさらに面白いことも判明した。
上の写真はAlibabaのページである。ウェアラブルカメラを1,000円位で販売しているもともとのページだ。
おわかりだろうか。Alibabaの商品紹介の写真を 「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」 でそのまま使っているのだ。
パクリページとパクられページを並べてみよう。
同じ写真を使っている。おそらくAlibabaのサイトからスクリーンショットで貼り付けているのだろう。スクショの貼り付けくらいなら筆者にもできそうだ。
Alibabaのサイトから拝借した写真も一枚ではない。
パクリ(CAMPFIRE) パクられ(Alibaba)
イケメン白人の写真もそのままAlibabaから拝借していると思われる。確かに我々日本人は白人に弱い。白人が使っているものは手放しでカッコイイと思ってしまうがそういう問題ではない。
転売ヤーチャンスだよ
これはクラウドファンディングと呼べるものではない。ただの転売である。
しかも10倍の価格での転売だ。仕入原価1割で9割が利益だ。すごい。転売ヤーはNintendo Switchを買い占めている場合ではない。
急いでアリババで謎の商品を仕入れてクラウドファンディングで10倍の値段をつけて転売しなくてはならない。
謎の商品は日本ではあまり見かけなくて、あれ?ちょっと便利なんじゃね?とかちょっと面白くね?と思えるもので、なおかつ1000円位で仕入れられるものならオッケーだ。
それを大胆に10,000円位でクラウドファンディングに出そう。大儲けだ。
開き直りを感じる
素晴らしい製品を見つけてきた
メガネ型ウェアラブルカメラをCAMPFIREで販売している会社は「株式会社フェリクス」と言うらしい。
実行者について
株式会社フェリクスは、世界中から素晴らしい製品をみつけてきたり、ライフスタイルに役に立つ製品の開発をしています。
プロジェクトの資金の使い道は、製品のプロモーションに充てたいと考えております。
Eyes Cameraを手にされた方が喜んでいただければ、それが幸いです。
CAMPFIRE
株式会社フェリクスは素晴らしい製品を見つけてきたのだ。資金の使いみちはプロモーションに充てるらしい。
垣間見える後ろめたさ
普通の製品販売業は販売費とか広告費で製品のプロモーションを行い、それらの費用も含めて製品の販売原価となる。
売上で得た資金が販売費や広告費に充てられるのだ。
プロモーションというのは販売や広告活動のことだろう。
つまり資金をプロモーションに充てるというのは当然の事なのだが、わざわざそれを記載する理由を知りたい。儲かりすぎて、ちょっと後ろめたさとかあるのかな、とか思ってしまう。
そもそもクラウドファンディングは応援的なものよね
夢のある新製品をみんなで応援する
筆者はあまりクラウドファンディングに興味がないが、クラウドファンディングへのぼんやりとした認識はある。
従来は金融機関やベンチャーキャピタルからの出資を得るのが難しかった不確実な新規事業でも、支援者の賛同があれば資金を調達し、ビジネスをスタートすることができます。
クラウドファンディングのメリット ビジドラ
また、消費者の支持を得られるかどうかを試す手段として利用することもできます。
クラウドファンディングはネット上で夢のある新製品のプランを示して、それを応援するものだという認識だ。
過去のクラウドファンディングの成功例を見てみよう。
glafitバイク
折り畳み式電動ハイブリッドバイクのglafitバイクだ。
3百万円の目標のところ、1億2千万円以上を集めて大成功している。
価格は原付バイクと変わらないが、折り畳みができて、車にも載せられる。自転車としても使えて、電動原付バイクとしても使えるというものだ。
glafitバイクは全く新しいコンセプトを訴えて購入型クラウドファンディングで資金を集めた。
資金調達の方法
筆者はクラウドファンディングとはこういうものだと思っている。皆さんも大体同じだろう。
夢のある新しい商品を世の中に出したいが、「開発や量産の資金が足りない」「コンセプトが新しすぎて販売量の想定ができない」「消費者の支持を得られるかどうか分からない」時に活躍するのがクラウドファンディングだ。
購入型クラウドファンディングであれば、新商品のコンセプトを出し、先に購入者を募って資金を調達してから、お礼として商品を購入者に渡す。
目標額に達しなければプロジェクトは中止する。クラウドファンディングのタイプによっては全額を返金するものもある。
冒頭で紹介したメガネ型ウェアラブルカメラはクラウドファンディングと呼べるのだろうか。クラウドファンディングのサイトに掲載されている激高転売通販商品ではないだろうか。
普通に売ってますけど
なぜクラウドファンディング?
現在進行系でこれってクラウドファンディングの必要ある?という商品を見かけた。
寝起きでボサボサの頭を掻きむしりながら、ネットサーフィンをしていた時にバナー広告のコードレス高圧洗浄機というものが目についた。
こちらはMakuakeというクラウドファンディングのサイトに掲載された商品だ。
目標金額は30万円だ。記事執筆時に募集期間を36日残して千人から2千万円を集めている。
すごい。大成功だ。多くの人が購入しているのをみるとそれだけで欲しくなってくる。僕もポチろうかしら。
高圧洗浄機を欲しがる現代人
高圧洗浄機だ。高圧洗浄機というとケルヒャーを思い出す人も多いだろう。
現代人はなぜか高圧洗浄機を欲しがる。
帰宅したときにふと玄関の汚れが気になる。ブラシでこするには範囲が広い。こんなとき高圧洗浄機があれば。
洗車のとき、足回りに付着した泥汚れが落ちない。高圧洗浄機があれば。
家の北側の壁は陽の光が当たらないために、苔のようなものが繁殖して広範囲が変色している。高圧洗浄機があれば。
こういう具合だ。現代人の身の回りは、高圧洗浄機を欲しがらせる事象だらけなのだ。
電源や給水が問題だ
高圧洗浄機のことが気になってしょうがない現代人だが、おいそれと手を出せない理由もある。
高圧洗浄機には水道と電源コードが必須だ。電源や給水が無ければ高圧洗浄はできない。
つまり、水道とコンセントがある場所じゃないと高圧洗浄機は使用できないのだ。
環境が整わない人は手を出せないのも高圧洗浄機なのだ。
ところが今回の高圧洗浄機はコードレスだ。
コンセントも水道も必要ないのだ。
これは革命かもしれない。
イケメンがこのコードレス高圧洗浄機を使って洗車をする動画だ。見てほしい。片手はポケットでラクラク高圧洗浄である。カッコイイ。
本論に全く関係ないがこのイケメン、テスラ社長のイーロン・マスクに似ている。イーロン・マスクが使っている高圧洗浄機なら余計に欲しくなる。
これも狙いだろうか。わざわざイーロン・マスクに似たモデルをさがして来たのかも知れない。手が込んでいる。
バッテリーでコードレス
どうやってコードレスを実現するのだろう。
まず、電源はバッテリーを利用している。
高品質なバッテリーらしい。バッテリーなら電源コードは不要だ。なるほどコードレスだ。
フル充電で20分使えるとのことだ。
「おや?20分か…洗車とかに使うにはちょっと短くないかな?洗剤が流れないうちにバッテリー切れになったら嫌だな」と心配になってしまった。
よく見ると予備のバッテリーパックを増やせと書いてある。なるほど。確かにバッテリーを増やせば理論上は無限に使える。恐れ入りました。
汲み水でコードレス
水はどの様に供給するのだろう。まさか水鉄砲のように本体内に水タンクがあるんじゃ無かろうか。水タンクが小さいと洗剤を流しきれないし、大きすぎると重いぞ。どうする?
これも杞憂だった。
バケツに貯めた水を吸い上げるのだ。
「厳密にはバケツから洗浄機まではホースがあるからコードレスじゃないよね」とか言う人はノリがわかっていない。水道ホース不要でほぼコードレスだから良いのだ。
「水道不要と言ってたけどバケツに水を入れる水道が要るよね」という人も浅はかだ。バケツの水を池で汲んでいるかもしれないじゃないか。写真の背景にも池らしきものがある。
「1.1kgの軽さとか言ってたけど、バケツの水を運ばなきゃいけないよね。バケツの水重いよね」とか言う人は野暮だ。本体は1.1kgだから問題無い。バケツの水が重いのは当然でそこに文句を言うのはイチャモンだ。クレーマーだ。
18,600円で買えてしまう
金額が気になるところだ。
一般販売予定価格24,800円のところをなんと25%オフで18,600円である。しかも税込み、送料込みである。早割で25%オフとのことだ。
24,800円が今だけ限定で18,600円だよ。
先着450名限定で残り22個になってしまっている。やばい。ポチるか。
コードレス高圧洗浄機たくさんある
Amazonで売っているのだが
だが、ちょっとまってほしい。メガネ型ウェアラブルカメラはAlibabaで販売されているものだった。
コードレス高圧洗浄機にも一般で既に市販されている可能性は無いだろうか?
Amazonで検索してみよう。
驚いた。コードレスと入力した時点で高圧洗浄機がサジェストされている。
嘘だろ?恐る恐るクリックしてみる。クラウドファンディングの高圧洗浄機に似たような商品がめちゃくちゃ出てきた。
Amazonだと半額以下
Makuakeと同一商品は無いものの、類似商品がゴロゴロ出てくる。コードレス高圧洗浄機って珍しくもなんとも無い一般的な商品なんですね。
商品ページの一つを開いてみた。やはり貯め水とバッテリーだ。商品コンセプトは全く同じだ。
金額が14,888円から更に8,000円オフとか書いてある。差し引き6,888円だ。大盤振る舞いじゃないか。意味がわからないほど安くなっている。
ちなみにクラウドファンディングの高圧洗浄機は18,600円だ。さっきは安く感じていたが撤回だ。高く感じています。一万円以上高いじゃないか。
マキタのバッテリーも使える
さらにマキタバッテリー仕様なんてものもある。
商品自体はマキタ製では無いが、電源にマキタの18Vバッテリーを使用するのだ。色もマキタに寄せてきている。
これもクラウドファンディングの高圧洗浄機より安い。
マキタファンの筆者はこれを買えば正解だ。
クラウドファンディングのグルーポン化
リメンバーグルーポン
多少目新しいだけで、すでに一般に販売されている商品を使って、クラウドファンディングで革命的商品チックに資金を集めている現象をどう捉えれば良いのだろう。
今回の事案で思い出したことがある。過去に一世を風靡したグルーポンだ。
グルーポン とは 意味/解説/説明 【Groupon,Group Coupon】
グループクーポンの略称。割り引きクーポンを複数の人が共同購入する仕組みのサービス。
24時間など一定期間内に購入希望者の数が一定数に達した場合にのみ、50%オフや60%オフといったお得な割引クーポンを販売する仕組み。
購入者側には通常よりもお得なクーポンを購入できるメリットがあるが、購入希望者数が一定数ないと自分も購入できないので、Twitterなどのソーシャルメディアを利用して情報を広げる力が働く。それにより、情報が広がる効果が期待できるメリットが販売側にもある。
impress
希望者が一定数に達したときのみ発動するクーポン券を、多数の購入者が手に入れる仕組みだ。
グループで購入するクーポンだからグルーポンだ。
クーポンの効果は様々だが、割引や特別価格と行ったものが多い。
購入者には割引というメリットが有る。
クーポンを発行した店にはまとまった数の顧客が得られるというメリットが有る。
グルーポンの管理会社は手数料収入というメリットが有る。
三方良しに思えるサービスだ。ところがグルーポンは廃れてしまった。
店にメリットがない
まず店にメリットが無かったのだ。
最終的には、出店する側にとってのメリットを見いだせなかったと思います。前述のように、単なるクーポンサイトになってしまうと、そこに集まってくるユーザーは“チェリーピッカー“と呼ばれる、安売りに集まってくるユーザーばかり。そうなると、飲食店などがクーポンを提供しても、新規顧客やリピーターが獲得できるのではなく、クーポンの商品だけを食べて、リピートしてくれないお客しか来てくれません。そうなってしまうと出店する側にとっては、魅力あるサービスとは言えなくなってしまいます
クーポンサイト なぜ廃れた? ヤフーニュースオリジナルthepage
安売り目的のユーザーしか集まらず、リピーターの獲得にはつながらなかったのだ。
広告媒体と言っても、広告の掲載料は発生せず、その代わり売れたクーポンの販売額の50%を手数料として支払う完全成果報酬型の広告になります。ちなみにグル―ポンへは掲載条件があり、一般的に販売している売価の50%以下の価格で割引クーポンを掲載しなければなりません。
Tactical Media グルーポン集客のデメリット
割引条件や手数料もエグい。50%以上の割引を行う必要がある上に、クーポン販売額の50%の手数料を収める必要がある。店の手元に残るのは通常売上の25%になってしまう計算だ。
ユーザーも被害
客にも被害はあった。格安価格で商品を提供するために、サービスの品質が低下してしまったのだ。売上が25%になってしまうのであれば無理からぬ事かもしれない。
ユーザーの被害を象徴する衝撃的な事件が起きた。スカスカおせち事件だ。
2010年末に横浜市の企業でカフェを経営し、水口憲治が代表を務める「外食文化研究所」が、グルーポン・ジャパンを通して1万円(定価の半額という設定)で販売したおせち料理の宅配(500セット)について、「傷んでいる」「内容が広告写真と違いすぎる」など、多数の苦情が発生した。宅配された料理は箱の容積に比べて内容量が極端に少なく、購入者がこの料理の写真をインターネット上にアップロードしたことで騒動となった。
すかすかおせち事件 Wikipedia
スカスカおせち事件を覚えている人は多いだろう。購入者は2万円の物だと思いながら半額の1万円で購入したおせちだ。販売者は5,000円しか売上の残らないおせちを提供した事になる。
グルーポンの触れ込みは、インターネットを利用した新しいマーケティングで、店も消費者も得をするというものだった。結果的には安いと思わせるだけの粗悪な商品があふれる結果を招いた。
結果として共同購入型クーポンサイト運営の代表的企業であるグルーポン・ジャパンは日本市場から撤退した。
2020年9月28日、日本市場からの撤退を決定したことが発表され、この日をもってクーポンの販売が終了。
Wikipedia グルーポン
粗悪な転売商品はユーザー離れを引き起こす
新商品のフリ
クラウドファンディングも、インターネットを利用した新しい資金調達だ。応援したい人が集まって、夢のある新商品に資金を提供できる場所のはずだ。
ところが特に新しくもない商品が新商品のフリをして売られる場になりつつあるのではないか、という心配をせずにはいられない。
プロジェクトを応援して商品を購入したあとに、ただの転売商品だったと気づいたユーザーはクラウドファンディングから離れてしまうだろう。
10,000円出して1,000円のウェアラブルカメラを掴まされたユーザーは二度とクラウドファンディングに出資をしないだろう。
おせちもクラウドファンディング
クラウドファンディングに豪華な格安おせちのプロジェクトが出たら注意したほうがいい。クラウドファンディングがグルーポンの二の舞にならないことを祈るばかりだ。…と書いてから念のために検索したら、既におせちがクラウドファンディングされていた。
目標金額300万円に対して60万円ほどしか集まらずに終了している。やはりみんなおせちには警戒しているのかね。ちなみにこのおせちプロジェクトはAll-in方式と呼ばれるもので、目標未達の場合でもプロジェクトは実施される。
このおせちの写真をよく見ると、ポスターを撮影しているように見える。右上はポスターの端が写り込んでいる。雑すぎないだろうか。このおせちがスカスカで無いことを祈らずにはいられない。
リテラシーのある消費者であるためには、クラウドファンディングで素敵な商品を見かけても、勢いで買ってしまわず、冷静にグーグル検索してみよう。
今記事のように、サジェストで類似品が見つかることもあるのだから。