ヒロシは、家電量販店に入った。特に用事はないが
エアコンが効いてて、トイレもきれいだからだ。
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ぶらぶら歩いて、冷蔵庫のコーナーに来た。
そこに立っていたのは、どれも自分より大きい冷蔵庫たち。
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価格札に目をやる。
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「32万……」
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ヒロシがどれだけバイトをすれば32万を稼げるのだろうか。
金額が大きすぎてすぐには計算できない。
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「ドラム式洗濯機…26万…」
「65インチテレビ…18万……?」
「炊飯器が…6万……!?」
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炊飯器に6万払う感覚が、想像できなかった。
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「家族おる人間は……こんなん、どこから出てくるんや」
ヒロシはつぶやいた。
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隣の売り場では、若い夫婦が冷蔵庫を見ながら相談していた。
子どもを抱えた奥さんが笑っていた。
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ヒロシはそっとその場を離れた。
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トイレだけ借りて、何も買わずに出るのはいつもの事だ。
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自動ドアが開く。
春風が吹いて、ヒロシのシャツがはためいた。
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「……洗濯機より軽いな、俺の人生、なんてな」
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そんな冗談をつぶやきながら、
ヒロシはポケットの中の小銭を数えていた。
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終わり