はじめての肛門科で肛門をほじられるという経験

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肛門付近に、どうにも気になる「できもの」のようなものが現れた。最初は「まあ、そのうち治るだろう」と放置していたのだが、時間が経つにつれて不安感が募ってきた。

「できもの」

トイレで大を済ませて拭く際に、トイレットペーパーの端が当たって違和感があるのだ、そのできものに。トイレットペーパーが軽くできものに当たると、かすかな痛みを感じる。風呂でその部分を指で触ってみると小さな突起状になっている感じがする。位置は肛門の数センチ前寄りの部分だ。ちなみにこの部分は会陰(えいん)と呼ぶらしい。

顔にできた吹き出物なら鏡で確認できるし、人に見てもらうことも出来る。しかし肛門付近となると話は別だ。手鏡を跨いで肛門付近を見れば良いのだろうか。手鏡が穢れてしまいそうだ。肛門付近をスマホで撮影して確認するという方法も考えられるが、自分の肛門をスマホで撮影するという光景を思い浮かべただけで情けないような恐ろしいような気分になる。撮影できたとしてその画像を見る勇気がない。

妻と子供に冗談っぽく「お父さんのおしりに何か出来たみたいだからちょっと見てくれ」といったら「やだー!」「ありえん!」「絶対無理!」と割と本気でキレ気味に散々罵倒されて少し傷ついた。

肛門は門番である

人間には幾つかの穴が空いている。まず目の穴と耳の穴鼻の穴、そして口の穴、尿道と肛門の穴である。穴の中でも口は入口の穴と言える。食べ物や飲み物を口から体内に取り込む。一方肛門は出口の穴である。食べ物を消化した残りカスである糞や消化の際に発生したガスである屁を肛門から排出する。排出と言っても垂れ流しではない。普段は閉じて糞やガスが勝手に出ていくのを防いでいる。これらが垂れ流しになったら臭くて大変なことになる。

肛門は文字通り「門」である。関所のような役割をしている。肛門というのは相当器用な器官である。ガスと固形物を間違えないのだ。

大腸を通ったガス(オナラ)が肛門まで来る。

ガス:「すみませーん通してくださーい」
肛門:「何者だ、名乗れい」
ガス:「オナラですぅ」
肛門:「よし、通れ」
ガス:「プーー♡」

こうしてオナラが出る。ちゃんと肛門がガスであることを確認してくれているのだ。
固形の場合も同じである。

糞:「通りたいんですけど」
肛門:「何者だ」
糞:「うんこです」
肛門:「ふむ、トイレに入るまでしばし待たれい」
糞:「はいー、5分は待てると思います」
肛門:「5分とな、承知した、できるだけ早く移動してもらわねば」
糞:「お願いします」

下痢の時などは間違えることもある。

下痢:「通りますー」
肛門:「何者だ」
下痢:「オナラです(大嘘)」
肛門:「よし、通られい」
下痢:「ありがとうございます(ビチグソダダ漏れ)」
人間:「ぐわー、オナラじゃないのかよ」

下痢ということは人間の体調が悪いのだから肛門がガスと液体を間違えてしまうのは無理も無いのかもしれない。

何科を受診するべきか

何科を受診するのかしばらく考えた。出来ものというのは皮膚の異常である。ということは皮膚科に行けば良いのか。しかし皮膚科で肛門付近を診てもらえるのか。

皮膚科の診察室でワタシはズボンとパンツを脱いで前かがみになって肛門を医師に見せるのか。横に看護婦は居るのか。診察室と受付が吹き抜けになっていないだろうか。尻の穴にうんこがついていたらどうしよう。

色々考えが巡るが、どうも皮膚科で尻の穴をさらすというビジュアルが浮かばない。困ったワタシはGeminiに「肛門の数センチ前に出来ものが出来たみたいなんだけど何科を受信すれば良いのか教えてしんぜよ」と打ち込んだところ「肛門科だろ、常識的に考えて」という答えが帰ってきた。

その答えの中でGeminiは「肛門付近の皮膚トラブルはやばい、すぐに受診することをおすすめする、手遅れになっても知らんぞ」と付け加えてきた。

デリケートな肛門付近

Geminiの言う通りだと思った。肛門付近はデリケートなのである。ワタシは夏場になると肛門付近に汗をかいて、その汗で湿った尻の肉同士の摩擦で肛門付近の皮膚が荒れて痛くなることがある。尻の割れ目の肉同士が汗で湿りながらこすれ合うものだから荒れてしまうのだ。

そうなるとその部分を風呂であらって、風呂上がりも乾燥させるなど気を使わないとなかなか治らない。肛門周りは普段奥深くに仕舞われているためか、一度トラブルになると治りにくいのだ。

現在7月上旬の暑い盛りである。今回の肛門横のデキモノもこのまま放っておくとやがて尻の湿気や圧力でどんどん悪化してしまうかもしれない。やがて出来ものが巨大化すると、トイレで尻を拭くたびにできものにうんこを塗りつける感じになってしまうかもしれない。やがて更に巨大化して肛門を攻撃してくるかもしれない。いずれは肛門と一体化して手を付けれなくなって医者に「なんでこんなになるまで放っておいたんだ!」とさじを投げられるかもしれない。恐ろしい

そんなわけで、ついに私は人生で初めて「肛門科」の扉を叩くことにした。

チクバ外科 

肛門科に心当たりがあった。「チクバ外科」という病院である。必要ないかもしれないがGoogleマップを貼り付けておく。

立派な病院である。

病院名の表示を見てほしい。

チクバ外科・胃腸科・『肛門科』と表示されている。ワタシは以前からこの「チクバ外科」の前を車で通っていた。誰からともなく「痔になったらチクバ外科」「肛門ならチクバ外科」「チクバ外科は肛門専門」のような情報を聞いていた。

いつの間にかワタシの中で「チクバ外科」は「肛門の権威」になっていた。チクバ外科は15年位前に建て替えて現在の綺麗な建物になったのだが、その際も「肛門の治療で建て替えるなんて大したモノだな」と根拠のない関心をしていた。

肛門科、それは未知のフロンティア

思い立ったら吉日である。肛門付近に違和感を覚えてから7日目の2025年7月7日の月曜日にチクバ外科の門をくぐった。

病院の受付で「今日はどのようなご相談ですか?」と問われた。こうした場面では、腹痛や咳などであれば軽く言葉にできる。しかし、肛門となると急に語彙が乏しくなる。「え、あ、肛門のあたりに…その…できものというか…」と、まごつく声で答えると、受付の女性は微笑を浮かべて(だいじょうぶですよ)というように頷いた。

慣れているという感じを受けた。やはりチクバ外科は肛門の権威だ。肛門の不調を訴える患者は多いのだろう。私の戸惑いなど造作もないことのように受付の女性は受付を完了して番号の入った受診表を発行してくれた。ワタシの番号は15番だった。その受診票を待合で待つように案内された。

事前に病院のHPで確認したところによると、チクバ外科は予約等は受け付けておらず、病院の受付への来訪順に順番待ちとなるとあった。8:15分受付開始で9:00診察開始とあった。ワタシは8:20ころ病院に着いたのだが番号が15番ということはワタシより先に着いた人が14人いるようだ。

待合には先客の診察待ち患者が座っている。中年男性、若い女性、老夫婦。思っていたより年齢層が広い。誰しもがどこか神妙な顔つきで、しかし恥ずかしさを紛らわせるようにスマホをいじっていた。

驚いたのは診察室と稼働医師の多さだ。診察室が6室並んでいて、その全てで医師が稼働していた。つまり医師も6人である。それぞれの診察室に1から6の番号が付けられている。上部に大型のモニターが据え付けられていて「自分の番号が表示されたら番号の診察室にお入りください」と書かれている。そして時々番号が表示されては該当する患者が診察室に入っていく。完全にスシローの入店システムと同じだ。

400番、401番、402番、、、というように400番から始まる番号も表示されていた。おそらく400番台は再診で予約をしていた患者だろう。

待合場所には30人位の人が待っている状態だが、診察室が6室あるのでどんどんと番号が表示されて次々と呼ばれていく。スシローよりも回転は早いななどと考えていると13番が表示され、14番が表示され、やがてワタシの番号である15番が表示された。

「どこ?」と医師は言う

肛門科の医師は、ワタシと同年代であろう落ち着いた男性だった。名札に目を落とすと「竹馬」と書かれていた。「たけうま」ではない「ちくば」である。後で病院のホームページで知ったのだが、この医師は理事長らしい。おそらくこの人のお父さんがチクバ外科を始めたのだろう。

竹馬医師はカルテに目を通しながら「できものですね、では、ズボンと下着をおろしてください」と指示する。医師が目線で指した先にはベッドが設えられている。ベッドの横の壁には「横を向いて膝を曲げてください」とイラスト入りで紙が貼ってある。これはシムス体位と言うそうだ。

画像引用元:平田肛門科医院

私がためらいながら下半身をさらけ出すと、看護師が後ろに回ってカーテンのようなものをかけてくれた。羞恥心の緩和措置だろう。ありがたい。

診察台の上で横向きになり、ズボンと下着を腿のあたりまで下ろし、膝を曲げる体勢をとる。実のところワタシは就寝時にこの姿勢で寝るのだが、病院で下半身丸出しでこのポーズをする日が来るとは思わなかった。

突然心配になった。「股にキンタマを挟んだ状態になってしまっている!今後ろから見たら非常に滑稽な状態になっているのではないか!キンタマの位置を前にずらして後ろから見えないようにしたほうが良いのだろうか」などと考えていると突然「どこ?」と医師の声がする。次の瞬間、私の肛門に指が触れた。

「ぬ、ぬぉー!」悶絶の中で説明する

「中を触りますねー」医師の指と思われるモノが肛門をこじ開けて入ってきた。突然の侵入に私は反射的に声をあげてしまった。「ぐうぁ!」医師は「ん?どれかなー?」などと言いながらワタシの肛門内をほじくり回す。

朝排便をしていなかったワタシは瞬間的に「うんこを漏らしてしまいそうだ!」と焦った。ワタシはうんこを漏らさないように必死で肛門の筋肉を締める。

「ぬ、ぬぉー! こ、肛門の中じゃなくて前側ですぅ!」

思わず語尾が崩れた。うんこを漏らさないように力を入れ、苦悶の表情を浮かべながらも、私は必死に場所を伝える。「肛門の中」ではなく「肛門の前」、つまり会陰部に近いところに違和感があるのだ。そこを、そこを見てほしいのだ。

医師は私の叫びにも動じることなく「ん? ああ、これか」と言いながら違和感のある場所をトントンとつついた。

どうやら彼にとって“肛門の内側”と“肛門の前側”は大差無いらしい。ラーメンの太麺と細麺くらいの違いしかないのかもしれない。毎日数十、いや数百の肛門と向き合っているプロフェッショナルにとって、私がうんこを漏らしそうになっていることなど特筆すべきことではないだろう。

「もう治りかけてるから放っておいて良いわ」

診断結果は拍子抜けするほどあっさりしていた。

「これね、もう治りかけてるから放っておいて良いわ」

それだけだった。何か薬を塗られるでもなく、生活指導をされるでもない。ただ、医師の言葉は確実に私の不安を取り除いてくれた。あの一言の中には、「気にしなくて良い」「重症ではない」「再発の心配も低い」という安心材料が詰まっていた。

「一応塗り薬を処方するので気が向いたら塗ってね、また気になるようなら来てください」医師は笑顔で語りかけた。医師の指にワタシのうんこが着いているのでは無いかと心配になったが、医師の顔を見ていたワタシはなぜか医師の指に目を落とすことはできなかった。

病院を出て車を運転しながら私は思った。「肛門をほじくられるのには苦悶したが、行ってよかった」と。さっきまで会陰部に感じていた違和感は受診しただけで消え去っていた。その後数日経つが出来物のようなものは完全に消え去ったようだ。医師の言うことは正しかった。

肛門科医という職業について思いを馳せる

ところで、肛門科の医師は一日に何個の肛門をほじくるのだろうか。

内科医なら心音や血圧を測る。耳鼻科医なら鼻の穴を覗く。しかし肛門科医は、問答無用で肛門に指を入れるのであろう。中には屁やうんこを漏らす人もいるだろう。これはすごいことだ。しかも一日数人では済まないはずだ。午前と午後の外来を合わせれば、20~30人の患者を診るとして、その大半に触診が必要だとすると…毎日20個以上の肛門に向き合っていることになる。

医師としての知識と技術だけでなく、肛門という部位に向き合う胆力がなければ務まらない職業である。私は心から敬意を抱いた。

患者のほとんどは恥ずかしさと不安の中で診察室を訪れる。医師はその感情を受け止めつつ、冷静に、淡々と、時には優しく肛門を診る。そのプロフェッショナリズムにはただただ頭が下がる。

おわりに

肛門に違和感を覚えたなら、恥ずかしがらずに病院に行くべきである。放置して重大な病気になるくらいなら、一瞬の羞恥心など安いものだ。私も今回の経験で、少しだけ肛門に対するメンタルブロックが外れた。

肛門は普段あまり意識しない場所だが、トラブルが起これば一気に存在感を増す。そんな繊細で重要な部位を守るために、専門の医師がいるというのはありがたいことである。

私は今後、もし再び“できもの”や“違和感”が出たときには、迷わず肛門科の扉を叩くつもりだ。今度は「どこ?」と聞かれてももう少し冷静に場所を伝えられる自信がある。

肛門に不安を抱えるすべての人へ、声を大にして言いたい。

「肛門科は、怖くない」

肛門をほじられるのには慣れそうにないが、確実に心強い味方である。